大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

松山地方裁判所 平成6年(行ウ)4号 判決 1997年5月16日

松山市来住町九二五番地六

原告

有限会社商品センター愛媛

右代表者代表取締役

岡田賢

右訴訟代理人弁護士

田中重正

松山市本町一丁目三番四号

被告

松山税務署長 槇實

右指定代理人

鈴木正紀

山本和郎

川西克憲

野村佳令

近藤俊三

高橋勝也

大野政徳

三谷博之

黒田保俊

川村勲

大喜多山治

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

被告が、原告の平成三年四月一日から平成四年三月三一日までの事業年度法人税について、平成六年一二月二六日付けでした再更正処分のうち、所得金額二二一五万一六三七円を超える部分、及び重加算税の再賦課決定のうち、これに対応する部分、並びに同事業年度の法人臨時特別税について、平成七年一月九日付けでした再々更正処分のうち、課税標準法人税額四五四万六〇〇〇円を超える部分、及び重加算税の再々賦課決定のうち、これに対応する部分をいずれも取り消す。

第二事案の概要

本件は、原告が平成三年度法人税の確定申告を行うに当たり、同年度中にその所有不動産を他に売却した際に仲介人に支払ったとする手数料相当額七〇〇万円を、損金として当該年度の所得金額から控除して申告したところ、被告が、(一) 右手数料七〇〇万円の支払の事実がないこと、(二) 仮に右七〇〇万円支払の事実があったとしても、右は仲介手数料としてではなく、不法な脱税工作資金として支払われたものであるか、あるいは使途不明金であって、税法上の損金には算入されないことを理由として、右手数料相当額の損金控除を認めず、右金額を含めた額を原告の平成三年度所得金額として、法人税の再更正処分等を行ったことから、原告が、右処分等のうち自己の確定申告額超える部分について、その取消を求めた事件である。

一  争いのない事実

1  当事者

(一) 原告は、愛媛県松山市内において古物商を営む有限会社であって、青色申告の承認を受けた者である。

(二) 被告は、原告がその取消を求めている平成六年一二月二六日付の法人税の再更正及び再更正による法人税に基づく重加算税の再賦課決定、平成七年一月九日付の法人臨時特別税の再々更正及び再々更正による法人臨時特別税に基づく重加算税の再々賦課決定の各処分(以下「本件各処分」という。)を行った者である。

2  原告による本件不動産の売却

(一) 原告は、平成三年四月九日、横山乃武寿との間で、原告が所有する愛媛県伊予郡松前町大字上高柳字古屋敷六〇一番一の土地(当時の公簿面積五四九平方メートル、以下「本件土地」という。)及び同番地所在の建物・構築物(以下、右建物・構築物と本件土地を併せて、「本件不動産」という。)を、金一億三〇〇〇万円で売却する旨の売買契約(以下「本件売買契約」という。甲一参照)を締結し、横山乃武寿から、平成三年四月九日に手付金一〇〇〇万円、同年四月一二日に中間金三〇〇万円、同年六月一〇日に売買残金一億一七〇〇万円を受領した。

(二) 右売買代金一億三〇〇〇万円と、本件不動産の簿価五二六五万〇九九二円との間には、金七七三四万九〇〇八円の格差があった(乙一・二二丁参照)。

3  原告の確定申告とこれに対する更正等の経過

(一) 原告は、平成四年六月一日、平成三年四月一日から平成四年三月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税及び法人臨時特別税に関し、別表1・2の各確定申告欄記載のとおり、青色申告による確定申告をした(乙一、二参照)。

その際、原告は、本件不動産の売却に伴う固定資産売却益を金七〇三四万九〇〇八円としたうえで、本件事業年度の所得金額を金二二一五万一六三七円、法人臨時特別税課税の標準法人税額を金四五四万六〇〇〇円と、それぞれ申告した(乙一・一丁、一七丁、乙二・一丁参照)。

右確定申告にかかる所得金額を前提に算出した場合の税額は、法人税が金七四八万七八〇〇円、法人臨時特別税が金一一万三六〇〇円である。

(二) 被告は、平成五年四月二八日付で、原告に対し、本件事業年度の法人税及び法人臨時特別税につき、別表1・2の各更正欄記載のとおり更正し、右各税につき、別表1・2の各賦課決定欄記載のとおり重加算税の賦課決定をした(乙三、四参照)。

その際、被告は、本件不動産の売却に伴う原告の固定資産売却益は金七三四万九〇〇八円であると認定して、原告の本件事業年度の所得金額は金二九一五万一六三七円、法人臨時特別税課税の課税標準法人税額は金七一七万一〇〇〇円であると算出した(乙三・二丁参照)。

右更正後の所得金額を前提に算出した場合の法定の税額は、法人税が金一〇〇八万〇五〇〇円、法人臨時特別税が金一七万九二〇〇円である。

(三) 原告は、平成五年五月一八日付で、国税不服審判所長に対し、右各更正及び重加算税の各賦課決定につき、別表1・2の各審査請求欄記載のとおり審査請求を行ったが、右審査請求は、平成六年六月二八日付で、別表1・2の各裁決欄記載のとおり棄却された(甲二参照)。

(四) そこで、原告は、平成六年九月二二日、右各更正及び重加算税の各賦課決定のうち、原告の確定申告額を超える部分の各取消を求めて、本訴を提起した。

(五) 被告は、本訴が提起された後、右法人税の更正についての理由の記載が不備であると判断したので、平成六年一二月二六日付けで、別表1・2の各更正及び賦課決定の取消し欄記載のとおり、右各更正及び賦課決定(平成五年四月二八日付の法人税の更正、更正による法人税に基づく重加算税の賦課決定、法人臨時特別税の更正、更正による法人臨時特別税に基づく重加算税の賦課決定)を取り消すと同時に、同日付けで、別表1・2の各再更正及び再賦課決定欄記載のとおり、各再更正及び再賦課決定(平成六年一二月二六日付の法人税の再更正、再更正による法人税に基づく重加算税の再賦課決定、法人臨時特別税の再更正、再更正による法人臨時特別税に基づく重加算税の再賦課決定)を行った(乙五ないし八参照)。

(六) 更に、被告は、右法人臨時特別税の再更正に理由の付記がなかったので、再度平成七年一月九日付で、別表2の再更正及び再賦課決定の取消し欄記載のとおり、右再更正及び再賦課決定(平成六年一二月二六日付の法人臨時特別税の再更正、再更正による法人臨時特別税に基づく重加算税の再賦課決定)を取り消すと同時に、同日付けで、別表2の再々更正及び再々賦課決定欄記載のとおり、再々更正及び再々賦課決定(平成七年一月九日付の法人臨時特別税の再々更正、再々更正による法人臨時特別税に基づく重加算税の再々賦課決定)を行った(乙九、一〇参照)。

二  原告の主張

原告は、本件不動産を売却するに当たり、その仲介手数料として、中岡勉及び松田正義に対し、平成三年四月九日に各金一〇〇万円宛(計金二〇〇万円)及び同年六月一二日に各金一〇〇万円宛(計金二〇〇万円)を、また松田正義に対し、同年一〇月九日に金三〇〇万円を、それぞれ支払った。

したがって、右合計金七〇〇万円は、本件不動産売却に伴う損金(必要経費)として、本件事業年度の所得金額から控除されるべきである。

三  被告の主張

1  原告が、中岡勉及び松田正義に対し、金七〇〇万円を支払った事実はない。

2  仮に原告が中岡勉及び松田正義に対し、金七〇〇万円を支払っていたとしても、右は不法な脱税工作のための資金として交付されたものであるから、税法上の損金たる費用に当たらない。

3  仮に原告が中岡勉及び松田正義に支払った金七〇〇万円が、脱税工作資金と断定しえないとしても、右が仲介手数料であると認めるに足る証拠はなく、結局使途不明金と言わざるをえないから、税法上の損金には該当しない。

4  原告は、仲介手数料を支払っていないにもかかわらず、金七〇〇万円の損金たる仲介手数料を支払ったかのように確定申告を行い、もって法人税の一部を免れようとしたものであるから、法人税の計算の基礎となる事実の一部を隠ぺい又は仮装したものとして、重加算税の課税対象となる。

四  争点

1  金員支払の有無(原告は、本件不動産の売却に際し、中岡勉及び松田正義に対し、金七〇〇万円を支払ったか否か。)

2  支払った金員の性質(原告が中岡勉及び松田正義に支払った金七〇〇万円は、仲介手数料か、脱税工作資金か、あるいは使途不明金であるか。)

3  脱税工作資金の損金算入の可否(脱税工作資金は法人税法二二条一項所定の損金に含まれるか。)

4  使途不明金の損金算入の可否(原告が中岡勉及び松田正義に支払った金七〇〇万円の使途が不明である場合に、右金額を損金として計上し得るか。)

5  重加算税の課税要件の存否(原告は法人税の計算の基礎となる事実の一部を隠ぺい又は仮装したものといえるか。)

第三当裁判所の判断

一  認定事実

1  本件土地の購入等

証拠(項三、乙二一、二二、証人中岡勉、証人松田正義、原告代表者本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 原告代表者は、昭和五五年前後に中岡勉と知り合い、以後時折中岡勉に原告の宣伝活動等のアルバイトを頼むなどして、比較的親しく付き合ってきた。

(二) 原告代表者は、昭和六〇年ころ、原告の支店(松前支店)出店のため本件土地の購入を強く希望していたが、当時の所有者であった高橋武雄が容易に売却に応じてくれず、困っていたところ、中岡勉から、自分の叔父であると称して、当時松前町の町議会議長を務め、松前町土地改良区の理事でもあった松田正義の紹介を受けた。

(三) 松田正義は、原告代表者の依頼を受けて、高橋武雄との間で売買交渉を行い、本件土地売却の承諾を取り付けた。また、当時は、本件土地が農地であったことから、松田正義は、土地改良区の理事として、原告のために水利権の調整交渉をまとめることにも尽力した。原告は、昭和六〇年八月二八日、日頃相談相手にしていた知人の曽我部泰司に依頼して、その立会を得たうえで、高橋武雄との間で、本件土地を金三三二七万二〇〇〇円で購入する旨の売買契約を締結した(甲三)。

(四) 右売買契約以来、原告代表者は、松田正義とも親しく付き合うようになった。右交友の過程で、原告代表者は、松田正義が愛媛県同和対策協議会(以下「同和対策協議会」という。)の役員であり、中岡勉もその関係者であることを知った。また、原告代表者自身、中岡勉ないし松田正義から、有利な資金提供が受けられる等として、同和対策協議会への入会を勧誘されたこともあった

(五) 原告は、昭和六一年二月一九日、本件土地上に建物を新築し、以後右建物を原告の松前支店として使用していた。

2  本件不動産の売却等

証拠(甲一、四、七の2、3、乙一一、証人中岡勉〔一部〕、証人松田正義〔一部〕、原告代表者本人〔一部〕)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 原告代表者は、平成二年秋ころ、中岡勉との雑談の最中に、坪当たり約一〇〇万円、総額で一億五〇〇〇万円以上の価額であれば、本件不動産を売却してもよい旨の希望を述べた。

もっとも、右当時、原告としては、直ちに本件不動産を売却する必要性に迫られていたわけではなく、右希望は、総額一億五〇〇〇万円なら世間相場より高額な取引であるから、これに応じてもよいとする、原告代表者の考えを偶々述べたものに過ぎず、原告代表者が中岡勉に対して、本件不動産売買の斡旋を依頼したわけではなかった。

(二) ところが、中岡勉は、右原告代表者の話を聞き、三宝アイム株式会社(中岡勉が原告代表者に対し、おじが経営する会社であると紹介した不動産業者)にかけあって、本件不動産に関する平成二年一〇月二四日付物件概要の案内書(甲四)を作成させた。また、中岡勉は、松田正義に対しても、原告代表者が本件不動産の売却を希望していることを伝えた。

(三) 一方、原告は、平成三年二月末ころ、山田建工株式会社(松田正義が原告代表者に対し、息子の勤務先として紹介した不動産業者)との間で、本件不動産に関する専任媒介契約を締結したところ(乙一一の三枚目ないし六枚目)、右事実を聞いた中岡勉が右契約締結に厳しく反対し、松田正義あてに契約解除の連絡を取ったため、右契約は解除することとなった。

(四) その後、原告代表者は、中岡勉及び松田正義から、本件不動産の購入希望者として、マイハウスこと横山乃武寿の紹介を受け、平成三年三月ないし四月ころ、同人と第一回目の売買交渉を行ったが、横山乃武寿の買い取り希望価格は一坪当たり金八〇万円程度(一億三〇〇〇万円位)で、世間相場並みの金額提示であった。

原告代表者は、特段本件不動産を売り急ぐ必要性もなく、売値としては当初より最低条件として金一億五〇〇〇万円以上とする旨希望していたことから、金額の開きが大きすぎて話にならないとして、右提示額を拒絶した。

(五) その二、三日後、原告代表者は、中岡勉から説得され、再び横山乃武寿と売買交渉の機会を持ったが、右第二回目の交渉に際しても、横山乃武寿からの買い取り希望価格は、従前通り一坪当たり金八〇万円程度の金額でしかなかった。

ところが、その際、中岡勉と松田正義は、原告代表者に対し、横山乃武寿の言うとおり一億三〇〇〇万円程度で売却に応じてやれば、本件不動産譲渡に伴う税金を安くなるよう、特別に計らってやると持ちかけたうえ、税務署に働きかける種々の方策があることを述べた。

原告代表者は、世間相場並みの売買代金額なら、本件不動産を売却する必要もないと考えていたが、特別に税金が安くなるのであれば、売却に応じるメリットがあると考え直し、本件不動産を売却することを決断した。

(六) 原告代表者は、平成三年四月九日、本件不動産所在地たる原告松前支店内において、中岡勉、松田正義及び曽我部泰司を立会人として、横山乃武寿との間で、本件不動産を一億三〇〇〇万円で売却する旨の本件売買契約を締結した(甲一)。

(七) 原告代表者は、本件売買契約に基づき、横山乃武寿から、平成三年四月九日、契約締結の場で手付金一〇〇〇万円を現金で、同年四月一二日、原告松前支店内で中間金三〇〇万円を現金で、同年六月一〇日、伊予銀行右井支店において残金一億一七〇〇万円を口座入金の方法により、それぞれ受領して、売買代金全額を受領した。中岡勉は、右代金の最終支払日にも、伊予銀行石井支店で金銭授受の席に立ち会い、代金完済の事実を確認した。

3  中岡勉、松田正義に対する金員支払等

証拠(甲一、五、六、七の3・6ないし8、乙一一、一三、一七、一八、証人中岡勉〔一部〕、証人松田正義〔一部〕、原告代表者本人〔一部〕)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 原告代表者は、平成三年四月九日、本件売買契約の締結に立ち会っていた中岡勉から、二〇〇万円の支払を要求された(いかなる趣旨の金として要求されたかは、後記三の2で認定する。)。そこで、原告代表者は、当日受領した手付金一〇〇〇万円の中から、金二〇〇万円を中岡勉と松田正義に支払った。その際、原告代表者は、領収書の発行を要求したものの、中岡勉と松田正義に拒絶され、これを諦めた。

(二) 次いで、原告代表者は、中岡勉及び松田正義から、更に二〇〇万円の支払を要求され(いかなる趣旨の金として要求されたかは、後記三の2で認定する。)、平成三年六月一二日、同和対策協議会が入居している白鳳会館に出向き、金二〇〇万円を中岡勉と松田正義に支払った。原告代表者は、右支払の際には、中岡勉と松田正義に対し、領収書の交付を求めなかった。

(三) 重ねて、原告代表者は、平成三年一〇月初めころ、松田正義から、税金を安くするべく各方面に根回しするために、更に三〇〇万円位の資金が必要であるので用意してほしい旨要求された。そこで、原告代表者は、平成三年一〇月九日、従業員を介して松田正義に対し金三〇〇万円を支払った。原告代表者は、右支払に際しても、松田正義に対し、領収書の発行を要求しなかった。

(四) その二日後、原告代表者は、松田正義に対し、税金を安くするための根回しが済んだかどうか、確認する電話を入れたところ、松田正義は、ちゃんとやったからと返事をした。

(五) 原告代表者は、平成四年ころ、松田正義から、同和対策協議会が白鳳会館で税務相談を開催しており、松山税務署員が税務相談に応じてくれるという趣旨の連絡を受け、相談に行ってみたが、相談員から、当日受付の相談内容は、法人ではなく個人に限られるとして、相談を断られてしまった。

(六) 原告代表者は、直ちに白鳳会館内の役員室に行き、松田正義に対し、「今日は、法人ではなく個人の相談日だと言われた。」と言うと、松田正義は原告代表者に対し、「あ、そうだったな。」と答えた後、更に、確定申告の際に、税務署長や同和対策協議会の会長らに渡す資金が必要だと行って、三〇〇万円、二〇〇万円、二〇〇万円の合計金七〇〇万円を、各別の封筒に入れて持ってくるように要求した。しかし、原告代表者は、右七〇〇万円の支払には応じなかった。

二  争点1(金員支払の有無)について

1  前記一の3の(一)ないし(三)認定のとおり、原告代表者は、本件不動産の売却に際して、その売買代金の中から、中岡勉及び松田正義に対し、平成三年四月九日及び同年六月一二日に各金二〇〇万円を、また松田正義に対し、同年一〇月九日に金三〇〇万円を、それぞれ支払ったことが認められる。

2  もっとも、証人中岡勉自身は、金銭受領の事実を否定している。しかしながら、証人中岡勉は、本件売買契約締結の当日(平成三年四月九日)には、右契約締結場所となった原告松前支店に、右契約に基づく残代金一億一七〇〇万円の支払期日(平成三年六月一〇日)には、右支払場所となった伊予銀行石井支店に、それぞれ出向いたことを自認していながら、右契約締結ないしは金銭授受の席自体には立ち会っていなかった等と、不自然な供述をしていること、更に、なぜ当日その場に出向いたのかについても、証人中岡勉は、偶々その場に居合わせたに過ぎない旨を述べたかと思えば、その不合理さを追求されるや、原告代表者の指示を受けた旨示唆するなど、曖昧かつ変節した証言をしていること、加えて、中岡勉は、原告から受領したとされる金員については、自己の所得として申告していないことから、右授受の事実を認めれば、自身の脱税の事実が発覚するという意味で、これを否定すべき動機を有していることが認められ、以上の事実に鑑みれば、金銭授受の事実を否定する証人中岡勉の証言は、容易に信用できないと言うべきである。

3  また、証人松田正義も、同様に金銭授受の事実を否定する。けれども、証人松田正義は、まず、本件不動産売買の斡旋をした事実はないと証言しながら、その一方で、本件不動産の購入を希望する者から、本件不動産に関する問い合わせを受けたことや、本件売買契約の買受人を原告代表者に紹介した事実を暗に認め、これ又相矛盾した証言をしていること、証人松田正義は、原告代表者に依頼されて本件契約締結の場に立ち会ったことを認めているが、他方、右売買契約の内容自体や契約締結に至る経緯についてはまったく知らず、買主がどのような人物で、本件不動産売買に関する問い合わせをしてきた相手方であるのか否かさえ分からなかったなどと、不自然・不合理な証言に終始していること、松田正義もまた、原告から受領したとされる金員を所得申告しておらず、金銭授受の事実を隠ぺいする十分な動機があったと認められることに照らせば、本件不動産の売却に伴う金銭授受の事実を否定する松田正義の証言も、信用することはできない。

三  争点2(支払った金員の性質)について

原告代表者が中岡勉ないしは松田正義に支払った合計金七〇〇万円の性質について、原告は本件不動産売買の仲介手数料であると主張し、被告は脱税工作資金であると反論するので、以下検討する。

1  平成三年一〇月九日支払の金三〇〇万円について

原告代表者自身が、松田正義から、「税金を安くするために、各方面に根回しするために、更に三〇〇万円位の資金が必要である。」旨を言われ、税金を安くしてもらいたいという気持ちを持っていたがために、平成三年一〇月九日、右三〇〇万円を支払った事実を認めている(第六回原告代表者本人尋問調書二九丁ないし三二丁)。

更に、原告代表者は、右金員を支払った二日後には、松田正義に対し、自己が支払った金員に見合うだけの脱税工作が本当になされたか否かを確認するため、電話までしている事実を認めている(甲七の8、第六回原告代表者本人尋問調書三二丁、三三丁)。

その上、原告代表者は、その年の年度末(平成四年三月ころ)に、松田正義に誘われて、同和対策協議会が白鳳会館で開催していると称する「税務署員による税務相談」なるものに、出向いた事実を認めている(第六回原告代表者本人尋問調書三五丁)。勿論、税務署員が白鳳会館に出向いて、同和対策協議会の会員の税務相談に応じる筈がなく、松田正義が原告代表者にそのようなことを言ったのだとすると、原告から金を引き出すための虚言であると思われる。

以上によると、原告代表者が平成三年一〇月九日に松田正義に支払った金三〇〇万円は、まさしく脱税工作資金ないしその報酬として支払ったものであると認められる。

2  平成三年四月九日及び同年六月一二日支払の各金二〇〇万円(合計金四〇〇万円)について

(一) 本件不動産売却を決断するに至った経緯からの考察

前記一の2の認定によると、原告代表者は、もともと、本件不動産を直ちに売却して現金を得る必要に迫られていたわけではなく、世間相場以上の価額(総額一億五〇〇〇万円以上)であれば、本件不動産を売却してもよいという程度の考えでいた。したがって、原告代表者は、買受人たる横山乃武寿の申し出た世間相場並みの価額(金一億三〇〇〇万円程度)では、本件不動産を売却する必要もなく、当初は右申出を断っていた。しかし、原告代表者は、第二回目の交渉の席で、中岡勉や松田正義から、「金一億三〇〇〇万円で本件不動産を売却するのであれば、税金が安くなるように税務署に働きかけてやる。」と持ちかけられたため、従前の態度を翻して、本件不動産の売却を決断したのである。

原告代表者が本件不動産売却の決断をしたのは、中岡勉や松田正義から、「金一億三〇〇〇万円で本件不動産を売却するのであれば、税金が安くなるように協力する。」と持ちかけられたためであることは、原告自身が平成七年二月二四日付け準備書面の三項の5で認めており、原告代表者自身も第六回原告代表者本人尋問調書一八丁で認めている。

そして、前記一の3で認定した右決断後の経過に照らせば、中岡勉や松田正義の言う「税金を安くするように税務署に働きかけてやる。」とは、中岡勉及び松田正義による脱税工作の申出に他ならず、脱税工作を依頼するからには、相応の資金及び謝礼を支払う必要があることは、誰しもが考えつくところである。したがって、本件売買契約成立後に、原告が中岡勉及び松田正義に支払った金(二〇〇万円、二〇〇万円、三〇〇万円)は、全額が脱税工作資金として支払ったのではなかろうか、との推測が成り立つ。

(二) 平成三年一〇月以降の脱税工作資金の支払及び要求からの考察

原告代表者は、平成三年一〇月初めころ、松田正義から、「税金を安くするために、各方面に根回しするために、更に三〇〇万円位の資金が必要である。」と説明されて、何の質問も反論もすることなく、同年一〇月九日に、松田正義に金三〇〇万円の脱税工作資金を支払っている(前記1で認定したとおり。)。

平成三年四月九日と六月一二日に支払った合計金四〇〇万円が単なる仲介手数料であったならば、「更に三〇〇万円位の資金が必要」となるはずもないから(本件不動産の売却価額一億三〇〇〇万円に対する仲介手数料は、昭和四五年一〇月二三日建設省告示一五五二号により、最高限度額が金三九六万円に制限されている。)、その要求があった時点で、原告代表者が松田正義に対し、その理由や内容を聞くのが当然である。原告代表者が松田正義に対し、何も聞かずに追加の脱税工作資金三〇〇万円を支払ったということ自体、当初の金四〇〇万円もまた脱税工作目的の支払であったことを、推測させるものである。

その後、松田正義からは、再度脱税工作資金としての金七〇〇万円の追加要求がなされている(前記一の3の(六))。松田正義が最初の二〇〇万円から始まって、二〇〇万円、三〇〇万円、七〇〇万円と、次第に要求をエスカレートさせているのは、当初から、原告代表者と松田正義との間に、脱税工作資金としての金銭授受に関する了解があったからこそ、松田正義が、原告代表者が一旦脱税工作資金の支払を約した弱みのつけ込んで、際限なく原告代表者から金を引き出そうとしたのではないか、との推測も十分に成り立つ。

(三) 原告代表者が領収書を受領していないことからの考察

原告代表者は、平成三年四月九日に中岡勉と松田正義に金二〇〇万円を支払うに当たって、領収書の交付を要求したものの、右両名からこれを断られて、あっさりと引き下がり、同年六月一二日には、残り二〇〇万円を支払うに際して、領収書交付の要求さえもしていない(前記一の3の(一)(二))。

右計四〇〇万円が、本件不動産売買の仲介手数料として支払われたものであれば、原告代表者は、もっと強力に領収書の交付を要求したはずであり、せめて、その支払方法を銀行振込にするなど、支払の事実に関する客観的証拠を残すことは、十分可能だったはずである。

原告代表者は、中岡勉や松田正義には、本件不動産売買の斡旋を正式に依頼したことさえなく、当然のことながら、その報酬については何の取り決めもなかったと供述しており、領収書の発行すらしてもらえないなら、同人らに対する仲介手数料の支払など、拒絶してもよかったのである。

実際には、右四〇〇万円は、脱税工作資金もしくは脱税のための謝礼金としての性質を有するものであったために、原告代表者としても、領収書の交付を強く迫れなかったのではないかと思われる。

(四) 金銭出納帳の記載からの考察

前記一の3の認定事実及び証拠(乙一七、証人庄司守克、原告代表者本人)によれば、原告代表者は、本件不動産売却に伴う金銭授受に関する事実以外は、日々の金銭収支をほぼ正確に、遅滞することなく金銭出納帳(乙一七)に記帳していたにもかかわらず、平成三年四月九日及び同年六月一二日に支払った各金二〇〇万円の支出に限っては、平成三年七月一二日付けで、「謝礼」金四〇〇万円を中岡勉に交付・支出したように記帳したことが認められる。

仮に、原告代表者が、平成三年四月九日と六月一二日に払った合計金四〇〇万円を、真実仲介手数料と考えていたのなら、当然各支払日に、前記金銭出納帳に、その旨記載すればよかったのであり、またそうするのが当然である。その勘定科目についても、「支払手数料」というゴム印がきちんと用意されているにもかかわらず(乙一七)、なぜそのゴム印を使用して、仲介手数料であることを明示せずに、単に手書きで「謝礼」とのみ記載したのか、という疑問がぬぐえない。

仮に、原告代表者が、本件不動産売買に関わる出入金額を後にまとめて記載しようとしたものだとしても、平成三年四月九日と六月一二日に支払った合計金四〇〇万円が、本当に仲介手数料であれば、本件不動産の売買に関わる出入金額は、遅くとも六月一〇日の最終入金と、六月一二日の最終支払が済んだ時点で確定し、それ以上に「追加の仲介手数料」の支払など必要となるはずもないから、毎月原告の帳簿類をチェックしに来ていた(証人庄司守克はそのように証言する。)庄司税理士に相談して、右六月一二日に近接した日時で、全出入金額に関する正式な記帳(仮受でない確定科目による記載)をすることが可能だったはずである。

結局、平成三年四月九日と六月一二日に支払った合計金四〇〇万円について、実際の支払時期から一か月ないしは三か月も経過した同年七月一二日の時点まで、金銭出納帳への記載が遅れた理由は、原告代表者自身が、その支払当初から、右金員は仲介手数料として支払ったものではなく、脱税工作資金もしくはその謝礼金として支払ったものと自覚していたために、金銭出納帳への記帳をすべきか否かためらい、その記載をするのが遅延したものと推測するのが合理的である。

(五) 原告の庄司税理士に対する説明からの考察

証拠(乙一八、証人庄司守克)によれば、原告の顧問税理士である庄司守克は、原告代表者が本件不動産売買に関して金四〇〇万円を支払った事実を、金銭出納帳の平成三年七月一二日付の「謝礼 中岡」の記載を見るまでまったく知らず、右記載を見た時点でも、金二〇〇万円ずつが同年四月九日と六月一二日に支払われていた事実を知らなかったこと、しかも、庄司税理士は、その支払事実を裏付ける領収書等がなかったことから、原告代表者にその説明を求め、本件不動産の売却に伴い合計金七〇〇万円を支払った経過について、事情を聞いたうえで、右金七〇〇万円は「同和対策協議会」に支払ったものと判断して、総勘定元帳の「土地・建物・構築物売却益」欄(乙一八)に、その旨記帳したことが認められる。

仮に、原告代表者が、中岡勉と松田正義に支払った合計金四〇〇万円について、支払当初から、同人らの不動産仲介斡旋行為に対する正当な仲介手数料であると考えていたのであれば、領収書も受け取らずに合計金四〇〇万円もの仲介手数料を支払ってしまったことについて、直ちに庄司税理士に相談して、その対策を協議したであろうし、二度にわたって各金二〇〇万円ずつを支払った経過や、領収書を受領できなかった理由等について、庄司税理士に詳しい説明をしたはずである。また、その際、原告代表者が、右金員は中岡勉と松田正義に対する仲介手数料であると説明しておれば、庄司税理士としても、当然総勘定元帳にもその旨を記帳したはずである。

庄司税理士が金七〇〇万円の支払先を同和対策協議会と記載したのは、原告代表者自身が庄司税理士に対し、右七〇〇万円を同和対策協議会に支払った旨の説明をしたからである。原告代表者がそのような説明をしたのは、結局、原告代表者自身が、当初の金四〇〇万円を含めた合計金七〇〇万円全額について、脱税工作資金又は脱税工作に対する謝礼金として、同和対策協議会に支払ったものであるとの認識を有していたからと思われる。

(六) 原告代表者の税務調査での回答からの考察

原告代表者は、松山税務署の税務調査に際し、「中岡勉が山田建工株式会社の社員であると考え、山田建工株式会社に対し、売買手数料(仲介手数料のこと)を支払った。」旨、担当者に回答している(乙一一)。

右は明らかに原告代表者の本訴での供述と矛盾する虚偽の回答である。原告代表者に、中岡勉及び松田正義に支払った金員が、同人ら自身の不動産売買斡旋行為に対する仲介手数料であるとの認識が当初からあったのであれば、原告代表者は、税務調査に際しても、「中岡勉が山田建工の社員である。」とか、「山田建工に対し仲介手数料を支払った。」などという虚偽の説明をする必要はなく、「中岡勉及び松田正義に対し仲介手数料を支払った。」と、回答していた筈である。

原告代表者は、脱税工作資金として、中岡勉及び松田正義に対し七〇〇万円を支払ったのであり、そのようなことは、松山税務署の担当者に言えないため、同担当者に対し、前述のようなデタラメの回答をしたものと思われる。

(七) 総括

以上の(一)ないし(六)記載の諸事情を総合すると、原告が平成三年四月九日及び六月一二日に支払った合計金四〇〇万円は、脱税工作資金ないしその報酬として支払ったものと認めるのが合理的であるが、前記一の2の認定事実に照らすと、本件不動産売買の仲介手数料としての性質も若干併せ持つことを、完全に否定することも困難である。

四  争点3(脱税工作資金の損金算入の可否)について

1  法人税法二二条一項における「損金」とは、一般的には、法人の純資産の減少を来すべき損失を指すものである。

しかしながら、法人の純資産減少の原因となる事実のすべてが、法人所得金額の計算上、当然に損金に算入されるべきものと解すべきではない。仮に経済的、実質的には事業経費や損失に当たるものだとしても、それを法人税法上損金に算入することが許されるかどうかは、別個の問題であり、例えば、そのような事業経費、損失の支出自体が法律上禁止されているような場合には、少なくとも法人税法上の取扱いのうえでは、損金に算入することは許されない(最高裁昭和四三年一一月一三日大法廷判決、民集二二巻一二号二四四九頁)。

そして、法人税法が、不正行為をもって法人税を免れる行為を刑罰をもって禁止していることに鑑みれば、同法が右不正行為及びこれに伴う一切の費用の支出を禁止していることは明らかであり、仮に脱税工作資金や脱税工作に対する謝礼金の損金算入を認めるとすれば、右は法人税法の自己否定とも言えるのであって、同法がこれを容認しているものと解することはできない。

法人税法二二条四項によっても、同条三項所定の原価、費用、損失は、いずれも一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるべきものとされているのであって、もし脱税工作資金や脱税工作に対する謝礼金の支出を損金に算入するという会計慣行が存するとすれば、右慣行自体が、課税所得の計算に関し、同法が容認する「公正妥当な会計処理基準」とはなり得ないものと言うべきである。

結局、脱税工作資金及び脱税工作に対する謝礼金の支出は、法人税法二二条一項所定の「損金」には算入されないものと解するのが相当である(最高裁平成六年九月一六日第三小法廷決定、刑集四八巻六号三五七頁参照)。

2  ところで、前記三で認定したとおり、原告代表者が本件不動産売買に伴って中岡勉ないしは松田正義に支払った合計金七〇〇万円のうち、平成三年一〇月九日支払の金三〇〇万円は明らかな脱税工作資金ないしその謝礼金であるが(前記三の1)、同年四月九日及び六月一二日支払の合計金四〇〇万円は、脱税工作資金及びその謝礼金として支払われたものではあるが、本件不動産の仲介手数料としての性質も若干併せ持つことを、完全に否定することも困難である(前記三の2)。

しかしながら、原告代表者は、右金四〇〇万円を中岡勉及び松田正義に支払うに際し、そのうち何パーセント(例えば九五パーセント)を脱税工作資金及びその謝礼として、残り何パーセント(例えば五パーセント)を不動産売買の斡旋行為に対する仲介手数料として支払うというような、明確な認識の下に支払ったものではなく、むしろ、脱税工作資金及びその謝礼であるが、本件不動産売買の斡旋に対する謝礼の趣旨も完全に否定するものではない、という程度の認識の下で交付されたものに過ぎないのであるから、そのうち金何円について不動産売買の仲介手数料であるとの認定をすることなど不可能であるし、またそのような認定をすべきものでもない。

結局のところ、右金四〇〇万円についても、全体としては、脱税工作資金ないしその謝礼金たる意図の下に交付されたものと評価して差し支えない。

3  以上の認定判断によれば、原告代表者が本件不動産売買に伴って中岡勉ないしは松田正義に支払った合計金七〇〇万円は、これを本件事業年度における損金として算入することはできない。

したがって、その余の争点につき判断するまでもなく、金七〇〇万円につき、これを本件不動産売却に伴う固定資産売却益の一部であると認定したうえで、原告の本件事業年度の所得金額を金二九一五万一六三七円、法人臨時特別税課税の課税標準法人税額を金七一七万一〇〇〇円であるとし、右各課税標準に基づいて法人税額及び法人臨時特別税課税額を定めた、被告の平成六年一二月二六日付け法人税の再公正及び平成七年一月九日付け法人臨時特別税の再々更正には、何ら違法な点はないことが認められる。

五  争点5(重加算税の課税要件の存否)について

そしてまた、以上の認定によれば、原告は、法人税法上損金に算入し得ず、所得として記載すべき脱税工作資金もしくは脱税工作に対する謝礼金等の合計金七〇〇万円を、仲介手数料であるかのように仮装して損金に算入し、確定申告を行ったことが認められるから、原告は、国税の課税標準の計算の基礎となるべき事実の一部を隠ぺい、仮装した(国税通則法六八条一項)ものと言うべきである。

したがって、法人税の再更正及び臨時特別税の再々更正に伴って被告が行った、平成六年一二月二六日付け法人税の重加算の再賦課決定及び平成七年一月九日付け法人臨時特別税の重加算の再々賦課決定にも、何ら違法な点はないと言うべきである。

六  結論

よって、被告が行った本件各処分はいずれも適法であり、原告の本訴請求は、いずれも理由がないので棄却する。

(裁判長裁判官 紙浦健二 裁判官 荻原弘子 裁判官高橋正は転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官 紙浦健二)

別表1

法人税課税等経過表

<省略>

別表2

法人臨時特別税等経過表

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例